かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「ごめん、ピンバッジがなくなって一番傷ついてるのは芽衣さんなのに……。昔ね、私が落選したパティシエのコンテストでずっとライバルだった人に賞をとられちゃったの。でもね、金賞のメダルをなんと次の日に失くしたのよ、私がずっとずっと欲しかったものを簡単に失くすなんてって……そのときのことを思い出しちゃって、ついカッとなっちゃった。ほんと、ごめん」

初めはどうして恭子さんがこんな口調なのかわからなかった。けれど、コンテストで新人賞を取れなかった人たちにとって、受賞者にのみ与えられる称号をあっさりなくすということは、あまり気分のいいものではない。恭子さんはその立場をよく知っているのだ。

「私も探すの協力するから、そんな顔しないで、ね? 店のスタッフにも声をかけてみるわ」

「はい。すみません」

「それにね、芽衣さんがこの間提案してくれた新商品、早速試しに店に並べてたのよ。結果を楽しみにしてて、自信あるから」

私を元気づけようとわざと明るく笑って、恭子さんが私の背中をポンと軽く叩いた。

「芽衣さんは笑顔が一番素敵なんだから、泣いてる顔なんて見せちゃだめよ?」

泣いてなんかいません。そう言いかけたけど、目が潤んでいたのは確かで、目敏い恭子さんにはバレていた。

「はい、すみません。気持ちを切り替えて頑張ります。あの、ありがとうございました」

父の店を何とかして繁盛させようと、みんな頑張ってる。恭子さんも、早速私の提案を実行してくれた。うじうじしている場合じゃない。

私は私で、やるべきことが山のようにあるのだから――。
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