かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
コンテストの新人賞の称号だということを知らないで盗んだって何の価値もない。ただのピンバッジだ。それにずっと胸につけていたものだし、ジャケットだって滅多に脱がない。万が一、長嶺さんが言うように誰かの手に渡っているのなら、落としたときに拾われたとしか考えられない。

まさか、何考えてるのよ、そんなことあるわけ……。

ない。と言い切れない自分がいる。

「身内を疑うなんて、そんな最低なこと考えたくありません」

一瞬過った疑惑をかき消すようにはっきりとそう長嶺さんに答えると、彼は小さくため息をついた。

「君の気持ちもわかる。俺は人を疑う悪いクセがあるからな、もし、万が一ピンバッジを盗んだ奴がいたら……俺はきっとそいつを許せない」

じっと見つめる長嶺さんの瞳の奥に、私は静かに滾る怒りを垣間見た気がした。

「……どうしてそこまで」

私以上に怒りを感じている彼が不思議だった。まるで他人事じゃないみたいに、失望している私の気持ちを理解しようとしてくれているのがわかった。

そんなふうに思ってくれるのは……私を恋に落とすため? 仮の妻だから?

長嶺さんの心が読めない。もどかしい。どうして私のことをそこまで考えてくれるのか、本当の彼の気持ちを知りたい。
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