かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「もし、君が犯人だったら……必ずそのレプリカを持って彼女の前に現れると思っていた」

たとえそれが真実だったとしても、本当のことを猪瀬君の口から聞きたい。私はゴクリと息を呑み、長嶺さんと猪瀬君の間に割って入った。

「猪瀬君、お願い、本当のことを聞かせて、長嶺さんの言っていることは……」

「全部本当ですよ」

ぽつりと呟かれたそのひとことで、何かの間違い。というわずかな希望も打ち砕かれた。小刻みに震える私の肩に長嶺さんの手が載せられると、堪えていた涙がつっと零れ落ちた。

「惚れた女性を裏切って泣かせることが君のやりたかったことなのか?」

理性で怒りを抑えたような低い声で長嶺さんが猪瀬君に問いかけると、彼はふるふると首を振った。

「親がカツカツで送ってくれる仕送りがどうしても足りなくて、かといって催促もできなくて……恭子さんにシフトを増やしたいって相談しても人件費削減だからって拒否されて、ムシャクシャしてたところに店頭で花澤さんのピンバッジが落ちてるのを偶然見つけたんです」

脱力した猪瀬君が事の真相をぽつりぽつりと、小さな声で語りだした。
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