かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「私も恭子さんの判断に任せる。私からは……ただ残念だったとしか言えない。それに人を恨み続けることも悲しいから、だから猪瀬君のことも恨まない」

「っ……くそっ!」

「あっ、猪瀬君!」

自分の愚かさに猪瀬君は居た堪れなくなったのか、わなわなと震える唇を噛み締めると地面を蹴ってその場を走り去っていった。
気がつくとあたりにはもう人の姿はなく、私と長嶺さんだけが噴水の前に立っていた。

「長嶺さ――」

「こんなもの!」

長嶺さんに向き直るやいなや、彼は私の手元にある偽物のピンバッジを奪い取り、噴水の池に投げ入れた。そして苛立ったように前髪を掻きあげる。

「まったく、君は……本当にお人好しだな。あんなやつ一発ひっぱたかれてもいいくらいなのに、どうしてそんなに冷静でいられるんだ? 君の誇りを踏みにじって盗んだ男だぞ? 情けをかける必要なんかないだろ」

どうやら猪瀬君に対する私の態度が納得いかなかったようだ。長嶺さんは不機嫌に抗議の言葉を並べた。けれど、責められている気はしない。むしろ、長嶺さんは拗ねているような……。

「ふふ、もしかして長嶺さん、嫉妬してるんですか?」

「は? なっ、こんなときに……君はなにを言ってるんだ」
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