かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
長嶺さんは普段、あまりコロコロ表情を変えたりしない。笑うにしろ怒るにしろ眉や唇の端が上がったり下がったりするばかりだ。それなのに今、頬を赤らめてこんなにも感情的になっている。私はその原因が自分にあるということに、この上ない優越感を覚えた。

「ピンバッジ、ありがとうございました。お礼を言うべき相手は猪瀬君じゃなくて長嶺さんでしたね」

「コレクターにとっては喉から手が出るほど欲しい代物だ。ほかの落札者に持っていかれなくて本当によかった」

「でも、五十万も払ったって、私、ちゃんとお金お返ししますから」

長嶺さんはゆっくり首を左右に振って目元に浮かべた笑みを深めた。

「その必要はない。むしろ五十万なんて値段をつけられて憤慨してるところだ。君の努力に値段なんかつけられないだろ?」

そう言って、私の手から小さなピンバッジをつまみあげ、胸につけてくれた。再び輝きを取り戻しキラッとそれは煌く。それを見た長嶺さんは満足そうに頷いた。

騒ぎを起こしたピンバッジも無事に戻ってきた。けれど、これでめでたしめでたしというわけには行かない。私の中でまだ終わってない謎がある。それは、彼の過去のこと。

恭子さんからは本人に聞いちゃだめだと言われたけれど、やっぱりもっと長嶺さんのことを知りたい。

「あの、聞きたいことがあるんです」

「なんだ?」

「教えてください。長嶺さんの過去のことを……」
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