かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
長嶺さんは肩を竦めて自嘲気味に笑うけれど、そんな彼がどうしようもなく愛おしいと感じてしまうから不思議だ。

「父とはずっと交流していたんですか?」

「ああ、俺が父の会社に入るために日本へ帰国してからも何度か食事に行ったことがある。けど……」

思い出したくない過去に長嶺さんは眉を曇らせ、その表情に影を落とした。

「君の父上がパリで開店させた店がプロジェクト満了後、たった二年で閉店に追い込まれてしまったと……食事に誘われた先で初めて聞かされたんだ。それでも笑って『日本で腰を据えて地道に頑張るよ』って、父上はそう言っていた」

悲しい。辛い。そんな彼の感情が冷たい空気を伝って私の心へ流れ込んでくるようだった。きっと長嶺さんはパリを離れてからも自分が手がけた店が繁盛していると思っていたに違いない。閉店したと聞き、自責の念に駆られて今でも思い出すのが辛いのだ。

だから自分がコンサルタントだったことや何もかも、思い出したくない過去としてずっと心の箱に閉じ込めていたんだ。

それから長嶺さんはコンテストで私と出会った。

そっか、私たち……実はすでに二年前に出会ってたんだね。

ん? ということは、待てよ?

長嶺さんから知らされた真実に、ひとつ腑に落ちないモヤっとしたものが沸き起こる。私がパッと身を引くと、これからキスを交わすんじゃなかったのか?というような憮然とした表情で長嶺さんは私を見下ろした。
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