かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
バーで出会ったのはたまたまだったのかもしれないけれど、長嶺さんがわざわざ私に会うためにパリに来たなんて驚きだった。確実に会える保証もないのに。

「長嶺さんは、全部初めから知ってたんですね。賭けをした次の日に私が日本へ帰ることも、仕事でまた再会するということも……それであんな賭けをするなんて、ずるいです」

加賀美さんは長嶺さんに私の行きつけのバーを教えたついでに、私が日本へ帰国することも話したはずだ。

口をへの字に曲げていると、長嶺さんはクスリと微笑んだ。

「それは君だって同じだろ? 日本へ帰ることを黙っていて俺の賭けにのった」

うぅ、それはそうだけど……。

長嶺さんに指摘されて言葉に詰まる。けれど、そんなことは今更どうでもいいというように、長嶺さんが私をもう一度抱きしめた。

「俺はずるくて悪い男だ。なんせあの賭けは君の気を引いて口説くための口実だったからな」

長嶺さんのすでに熱を孕んだ目でじっと見つめられる。そんな至近距離から顔を覗き込まれると、息も絶え絶えになってくる。

「三ヶ月待つと言ったが……もう待てそうにない。俺はずる賢くて堪え性がなくて、どうしようもない悪い男だ」

「な、がみ――」

長嶺さん、と呼びかけようとしたら、薄く開いた唇から長嶺さんの舌が忍び込んできた。背中に回された手は優しく上下している。それは、まるで自分がした行いを「怒らないでくれ」と許しを乞うようだった――。
< 151 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop