かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「いきなりこんなこと言って驚きましたよね、すみません。でも、恭子さんには一番に報告したかったんです。でも、まだ保証人とか全然決まってなくて……今、誰にお願いしようかなって考えてるところで」

「……そう」

なんだか恭子さんの声のトーンが低い。長い睫毛を伏せて、なにか考え込んでいるようにも見える。

先日、長嶺さんから“夫となる人”の欄に達筆な字で記入された婚姻届を渡された。あとは私が書きこむだけの状態。保証人の欄には、彼のお父様の名前が書かれていた。長嶺さんは大手企業の御曹司だ。きっと妻となる人は良い家柄のお嬢様でなければ反対されるのではないかと思っていたけれど、彼の話によると快く了承してくれたのだという。

「恭子さん?」

彼女は一点を見つめ、グラスに手を添えたまま動かない。私が怪訝に窺っていると、恭子さんは急に顔をあげてパッと笑顔になる。

「よかったじゃない! おめでとう! 彼とは昔からの付き合いだけど、やっと結婚相手を見つけたか。うんうん。保証人、まだ決まってないんだったら私がサインするわよ?」

「本当ですかっ! よかった」

――あいつには近づくな。

そういえば、以前、長嶺部長が恭子さんのことをそう言っていたのをふと思い出す。なぜ、彼があんなことを言ったのか、いまだに不明のままだ。
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