かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
――きっと長嶺はまだ自分のことを全部君に話してないはずだよ。それでも彼を信じて結婚するの?

懸命に自身を律しようとしているときに限って、以前、石野さんが言っていた囁きが心に揺さぶりをかけてきた。けれど、ここで「もう長嶺さんとは結婚もしないし、関係ありません」なんて言えば、「それなら堂々と君を誘えるわけだ」と言われかねない。

「秘書に車を待たせてあるんだ。今は乗り気じゃなくてもその場に行けば気分がかわるかもしれないよ? さ、行こう」

「え? あ、ちょ――」

無理やり手を掴まれてぐっと引き寄せられると、私は否応なしに路肩に停車していた車の後部座席に押し込まれた。そのとき。

「芽衣!」

遠くで聞き覚えのある声に名前を呼ばれた気がして勢いよく顔をあげた。

今の声、長嶺さん? まさか……だって、彼は明日帰ってくるのに。

聞こえるはずのない声だ。だからきっと気のせいに違いない。そう思い直していると石野さんが私の隣に乗り込んできて荒々しくドアを閉めた。

「早くだせ」
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