かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
石野さんに連れてこられたのは六本木にある富裕層をターゲットとしたエグゼクティブ会員制クラブだった。

パーティーやイベント、異業種交流会など、シーンに合わせてサービスを提供するサロンで、仕事が終わったままの恰好で来られるような場所じゃない。

「すみません、やっぱり私こんな格好だし……帰ります。会員でもないし」

車から降りてクラブへ入ろうとする石野さんを引き留めて言うと、彼はさっと私の肩を抱いた。

「大丈夫、君みたいに仕事終わりで来てる連中なんてたくさんいるさ。会員じゃなくても僕が会員だからいいんだ、心配しないで。さ、こっち」

バロック建築にも似たエキゾチックな建物に促されて入ると、まるでそこはおとぎ話に出てくるような立派な内装だった。彫刻や調度品の装飾は嗜好性があってイタリアにいる気分にもなる。

今回のクリスマスパーティーは石野さんが主催しているようで、案内された大部屋には五十人ほどの人がすでにほろ酔いで歓談に花を咲かせていた。落ち着いた大人っぽい雰囲気を演出するためか、ほどよく落とされた照明のせいで薄暗い足元がおぼつかない。

綺麗なパーティードレスに身を包んだ女性たちが石野さんに気づくと、その横にいる私を見てコソコソとなにか囁き合っている。ここに集まっている人たちは二十代から三十代の比較的若い年齢層で、全員石野さんの顔見知りだという。
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