かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
※ ※ ※

それから月日が巡り巡って一年後――。

店内に飛び交うフランス語を聞きながら、私はすっかり背中まで伸びた髪を後ろで束ねてひと息つく。

一年ぶりくらいだよね、懐かしいなぁ。

注文したパナシェを受け取り、ふと、冬也さんと初めて出会ったときのことを思い出す。
ここはパリ。そして私がいるのは郊外にある小さな“あの”バーだ。

久しぶりに来てみると、私が財布をすられて立ち往生しているときにいた小太りのマスターは引退して、今は息子さんが店を切り盛りしていた。店の内装はまったく変わっていない。だから一年前にタイムスリップしたみたいな感覚さえ覚える。

私は冬也さんと結婚し、年明け早々慌ただしくパリ支店へ転勤した。一年という期間は短いようで長かったけれど、毎日のようにかかってくる冬也さんからの国際電話がその距離を縮めてくれた。そして、ついに私はようやく赴任期間を終えて明日帰国する。今夜はひとりで“お疲れ様会”のつもりで飲みに来たのだ。
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