かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「長嶺不動産の開発運営管理の部長である長嶺さんも、この店の主を失ってずいぶんと気にかけて頂いてます。ここの施設のオフィス棟に本社があって、ときどき視察にいらっしゃるんですよ」

「アリーチェ銀座を管理してるマネジメント会社でしたよね?」

「ええ、おそらくそのうちお会いできると思うのですが、部長はなんせうちのショートケーキが大好物で……」

そういえば、加賀美さんが部長じきじきにプロジェクトのオファーを依頼してきたって言ってたな……。どんな人なんだろ?

部長と聞くと、おじさんで堅苦しくて……という先入観がある。けど、ショートケーキが好きと聞いて少し違った印象を受けた。それに、私も父の作ったショートケーキは大好きだ。ミルク感たっぷりの生クリームにふわふわのスポンジ、甘酸っぱい苺がマッチして最高に美味しい。昔から試作品だと言っては色んなスイーツを食べさせられたけれど、やっぱりショートケーキが一番私のお気に入りだ。

頂いた紅茶を飲み干して、店を見回すと次第にお客さんが店内に増えてきた。

「あの、私そろそろ行きます。ここの施設内を見て回りたいし、あまり長居するとお客様にも迷惑ですから……。ヒアリングの日程だけ店長さんと決めて、今日は失礼しますね」

私は席を立ってぺこりと頭を下げると、館川さんは恐縮したように首を振った。

「いえいえ、こちらこそ。どうかよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げられ、その言葉にずしりと重みを感じる。私には、この店のみならずスタッフの将来もかかっている。明暗を分けるのは……私だ。

店を後にする前に、店長兼パティシエである佐伯さんにひとこと挨拶していこうと厨房に視線をやると、ちょうど彼女と目が合った。すると、ふわっと笑みを浮かべてわざわざ中から出て来てくれた。

「初めまして。先代の娘さんの芽衣さんよね?」

「え?」
< 23 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop