かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
はぁ、なんだかバタバタして慌ただしかったな……。

まだ気を許して身体を休めることはできない。今から会社に戻って仕事が終わったら、荷物をまとめて今夜、長嶺さんの住む住居棟へ行くという難題が残っている。それを思うと、どっと疲れが増す思いだった。

そうだ、せっかくだから会社に戻る前にケーキをいくつかお土産に買っていこうかな。

冷蔵ショーケースを見ると、私の好きなショートケーキやチーズケーキ、フルーツケーキなどが綺麗に並んでいてどれも美味しそうだ。

「すみません、モンブランとショートケーキとチーズケーキを三つずつください」

「ありがとうございます。かしこまりました」

売り子の女性スタッフに声をかけると、愛想のいい笑顔が返ってくる。そこへ……。

「あ、やだわ、モンブラン売り切れちゃったじゃない」

ちょうど真横にいた真っ赤なオータムコートを着た派手な中年女性が、わざと私に聞こえるようにぶつくさと文句を言ってきた。

「困ったわぁ、今日来るお客さん、ここのモンブランすごく好きなのに……」

ショーケースに残っていたモンブランの在庫は、私が三つ頼んだところでちょうど売り切れてしまったようで、売り子さんも苦笑いを浮かべて「すみません」と頭を下げている。

「今夜のパーティーにデザートとしてどうしても欲しいのよ。いつも贔屓にしてるんだから、なんとかならないかしら? ここのスイーツは絶品だってパーティーに来ているお客に宣伝しておくから」

その様子を窺っていると、売り子さんが一旦その場を離れ、すぐに戻ってくる。

「あの、三十分ほどお時間いただければご用意できると……」

「三十分!? そんなの待てないわよ、今すぐ何とかならないの?」

売り切れているものを出せという無茶振り。見るに見かねた私は恐る恐るその中年女性に声をかけた。

「あの、三つでよろしければお譲りしますよ」

「え? あらぁ、いいの?」

私がそう声をかけるのを待ってたくせに、その女性はわざとらしく顔をパッと明るくさせた。

「ええ、代わりにチョコレートケーキを頂いていきますから、どうぞ」

「まぁ~、悪いわねぇ。じゃあ、今箱に詰めたモンブラン、こっちに頂こうかしら」

はーっ! 図々しい。まぁ、声をかけたのは私だし……いっか。

「すみません」

売り子さんが申し訳なさそうに小声で呟いて私に頭を下げる。

「ごめんなさいねぇ、ありがとう」

その中年女性は満足げに会計をして店を後にした。
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