かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
自分で言うのもなんだけど、昔から学校の成績だけはよかった。英才教育だといって、小さい頃から英語とフランス語を父から教わり、そのおかげですんなり留学もできた。仕事もそれなりにこなせたけれど、決定的に足りないものと言えば……料理のセンスだった。

男を振り向かせるには、まずは胃袋を掴め。と父から言われ続け、またいつもの冗談だと気にも止めていなかったけど、さすがにこの年齢になると意識したほうがいいような気がする。なんせ、私は味噌汁だって満足に作れないのだ。

長嶺さんはネクタイをしゅるっと解くと、シャツのボタンを寛げ、キッチンを見つめながら唇を歪めている私に優しく目を細めた。

「俺は君と反対で料理は得意なんだ。お互いに足りないものを補い合うのが夫婦だろ? 食事のことは俺に任せな」

ああ、周りにこういう人がいるからついつい甘えちゃうんだ……。これじゃいつまでたっても上達しないわけだよね。

「じゃあ、お料理作るときは教えてくれませんか?」

何事も前向きに。というのが私のモットー。前向きなのはいいけれど実際、私の料理音痴を彼が知ったら……きっと幻滅されるかもしれない。

よくよく見たら色んな種類のスパイスやハーブがあるし、調味料もある。

長嶺さんの料理が得意だというのは、まんざら嘘でもなさそうだ。
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