かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あ、花澤さん、おはようございます。すみません、もう少し早く出勤してれば長嶺部長のところに俺が持って行ったんですけど……」

店に戻り、無事にお使いを遂行したことを恭子さんに報告すると、学校を終えた猪瀬君がいた。店の様子はどうやら三時のピークは越えて少しばかり落ち着いているようだ。ショーケースの在庫も補充されて十分ある。

「いいんです、ついでにオフィス棟の見学もできたし」

長嶺さんの仕事してるところも……。

「そういえば花澤さん、今日はどうしたんですか?」

猪瀬君に言われてハッとする。そうだ。今日は店の視察と、できれば過去の売り上げデータの資料をもらいに来たんだった。

「プロジェクトに必要な資料をもらえればと思って……」

見ると、恭子さんは厨房で忙しくしている。とてもじゃないけれど今、声をかけられる状況じゃない。

「あ、売り上げデータなら恭子さんから預かってますよ。しばらく厨房から離れられないから、もし花澤さんが戻ってきたら渡すようにって。ちょっと待っててください」

ああ、恭子さん、話の理解が早くて助かる。こっちから催促しなくても私が欲しい資料をちゃんとわかってる。

プロジェクトを成功させる秘訣はやっぱりクライアントとの相性もある。恭子さんとはいい関係が築けそうだ。

冷蔵ショーケースの前で待っていると、下段の隅に大きな苺のデコレーションケーキが置かれているのに視線が止まる。そして、白いプレートにチョコペンで書かれた【Happy Birthday 】の文字に過去の記憶の波が押し寄せた。
< 63 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop