かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
売り上げが落ちてるって、わかってはいたけど……こうして数字で見るとやっぱりショック。

「先代の店だからこそ足を運んでいたお客様もいて、店の味は変わらないのにさ……世知辛い世の中ねぇ。ごめん、こんなことをぼやいていても仕方ないわね」

恭子さんが力なく笑う。今まで何度も経営不振に悩んでため息をつくクライアントの寂しげな顔を見てきた。そう思うとズキリと胸が痛い。

なんとかこの店を私が守らなくちゃ……。

改めてそんなふうに思い知らされる。プレッシャーに押しつぶされそうになってる暇なんかない。

「ふふ、もう、芽衣さん、そんな顔しないで。うちの店には優秀コンサルタントの芽衣さんがついてるんだもの、こっちは大船に乗った気分でいるわ」

恭子さんが肩にかかった長い髪の毛をさっと払う。普段、帽子を被っているからわからなかったけれど、背中まである長い髪は艶めいていてほんのりシャンプーのいい匂いがした。

「恭子さん、このピンバッジのこと知ってたんですね。猪瀬君が言ってました」

「うん、ちょっとね。パティスリー・ハナザワに就職する前にも何度か経営コンサルタントに会ったことあるし、でも実際本物のピンバッジ見たのは初めてだけど……ねぇ、そのピンバッジって、実は結構高値で売れるって知ってる?」

「え……?」

じっとピンバッジを見つめる恭子さんの目と合う。
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