かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
表情は柔らかいけれど、その目の奥になんとなく冷たいものを感じ取って息を呑む。

ピンバッジが高値で売れる?

もちろんそんな売ったりなんかする気は毛頭ない。長年努力してやっとの思いで手に入れた名誉だ。でも、受賞した人の中には……そういうことをする人もいるのかもしれない。

「だから、うっかり無くしちゃったなんてことないように気をつけてね、っていう老婆心からのちょっとした忠告」

「は、はい……」

今まで胸に着けていてなくしたこともないし、そんなふうに忠告されたこともなくて戸惑ってしまう。すると、恭子さんがスッと椅子から立ち上がって私の肩をポンと叩いた。

「一緒に頑張りましょう、よろしくね」

にこっと笑顔を向けられて思わず惚けてしまう。

「はい、こちらこそ」

同じ女性同士なのに、すごい身長差……。

私の身長は百五十センチと小柄な部類。棚の上にあるものは踏み台がないと手が届かないこともしばしば。

「恭子さんって、背が高くてモデルさんみたいですよね、私、背が小さいから会社でも結構不便なことが多いんです」

うっかり素直な感想を口にしてしまいハッとなる。もしかしたら背が高いことを気にしてるかもしれないというのに。

「ふふ、女性はそのくらいが一番可愛いのよ? 私なんかこの身長のおかげで威圧感あるみたい。モデルみたいだなんて、そんなこと言ってくれたの芽衣さんだけよ」

目を細め、にこりとするその笑顔から猪瀬君が言う“腹黒”なんて文字は微塵も感じられなかった。
< 69 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop