かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「私はもう少し仕事をしてから帰るわね、エントランスは閉まってるから裏口から出てね」

「はい。じゃ、失礼します」

帰ろう。お腹空いたな……。

今日は会社には戻らず直帰する予定だ。帰りに地下の食料品売り場の総菜パンを買って帰ろうと思ったけれど、店が閉まっていることに気がついて、夕食をどうしようかと考えあぐねながら従業員用出口の扉を開ける。すると、そこに意外な人物が立っていた。

「お疲れ、終わったか?」

「あ、長嶺さん……」

ベージュのステンカラーコートをスーツの上から羽織った長嶺さんが笑顔で出迎える。まるで私を待っていたかのようだ。

「長嶺さんも終わりですか?」

「ああ、もしかしたら店に君が来ているんじゃないかって思って待っていたんだ」

え? 店に来ているんじゃないかって、長嶺さん……勘が良すぎ!

「夕飯は?」

ぎゅるるる。

夕飯、という単語を聞いて刺激されたのか私のお腹が「早くなにか食べさせろー!」と訴えかけてきた。

「いえ、まだなんです」

「じゃあよかった。なにか食いに行こう。俺もまだなんだ、なにかリクエストはあるか?」

リクエスト……。急に言われてもなにも思いつかない。しばらく考えて、帰国したら最初に食べようと思っていたものがまだ保留になっていることにふと気づく。
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