【短】舞散れ、冬の香り。
「ねぇ…?堕ちておいでよ。俺の所に」
「ばか、じゃない?この世の中に永遠なんて、そんな甘いものないのに…」
「じゃあ…俺と作ろうよ?それならいいんじゃない?」
あくまでも、譲らない彼に、押される私。
あんなにも、燃え上がるような恋をして来て、それを失う経験もしてきたというのに…。
こんな小さなきっかけで、揺れそうになっている、私の…震える感情。
「それを維持することなんてそうそう出来ないって、容易く分かるでしょう?」
私は揺れる想いを必死に押し殺して、彼に問う。
それでも、彼は揺るがない。
「じゃあ…内海さんが維持するのが難しいって思っても、俺がそれ維持できるように努力すれば、上手く軌道修正出来ると思うよ?」
この自信はどこから来るのか。
私は一つ溜息を吐く。
そんな私の髪に古松くんは顔を寄せてから、喉の奥でくつくつと押し殺した笑い声を上げた。
「……何よ?」
「いい匂い。前から思ってたけど…なんの香水?」
「…カイルのローズよ」
「ふぅん?それって…あの人の趣味?」
「それは、って…ん…っ。くすぐったいってば」
くん、と古松くんの口唇が、髪から耳元に降りてきて、私は身を捩るけれど上手く逃げられない。
「この匂いも好きだけど。明日からコレに変えてくれたら嬉しい…」
そう言って手渡されたのは、どこから出して来たのか、昔から大人の女性に人気で憧れのブランドのNo.5。
「ベタかもだけど。凛としてて綺麗で聡明な内海さんにはコレが一番だと俺は思うんだ…」
「そんな風に言われたって……」
「しぃー…ね、堕ちておいで…誰よりも愛してあげるから」
それは甘い毒のような誘惑でしかなく。
未来への怯えや不安なんかを取り払うくらいの、破壊力があったんだ…。