【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
しばらく互いに見つめあっていたが、ティアナの目には次第に狼狽の色が浮かんでいった。
「パ、パメラ……!」
椅子から立ち上がり、更に壁側へ後ずさろうとするティアナのもとへパメラが素早く駆けつけ、その手を握る。
「大丈夫でございますよ、私がそばにおりますから」
パメラの呼びかけに、ティアナは小さな頷きを繰り返す。
エルシーは急に王女を驚かせてしまったことに罪悪感を覚え、その場でドレスを持ち、ゆっくり膝を折りながら頭を下げた。
「申し遅れました。私はエルシー・セルウィンと申します。この度、ティアナ王女殿下へお側仕えを、陛下からおおせつかりました。どうぞ、お見知りおきくださいませ」
頭の頂点に視線を感じる。おそらくティアナが自分を観察しているのだろう。しばらく沈黙が流れたあと、ティアナがゆっくりと口を開いた。
「……侍女の手ならパメラだけで足りています」
「いいえ、このお方は第一騎士団長セルウィン様の奥方様で、公爵夫人であらせられます。侍女ではなく、ティアナ様のお話相手として、いらっしゃいました」
パメラが淡々とした口調で説明した。
再び静けさが部屋全体を包んだが、やがて「そうですか……」とティアナは呟くと、椅子に座った。出ていけ、と命じないあたり、渋々受け入れたのだろう。
こうして、反応の薄い王女との新たな生活が始まった。翌日からエルシーは午後に出仕し、基本的に夕刻まで王女のそばで過ごす。王女の心に近づこうと、自らお茶を淹れ、他愛のない話をする。最初は王女も何もしゃべらず、不毛な時が流れたが、エルシーが根気よく仕えたのが功を奏したのか、五日ほど経つと、王女も少しずつ反応を示し、口角を上げ、微笑を見せるようになったのだ。