【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 ティアナも素早くドレスを肩まで引き上げると、焦点の定まらない目のまま自分の身体を抱きしめ、うずくまった。

「だ……誰にも言わないでください……っ」

 消え入りそうな声が、震えるティアナから聞こえる。エルシーの混乱はまだ続いていたが、なんとか心臓の動悸を抑えようと大きく息をした。ここでもしティアナが暴れでもしていたら、エルシーは躊躇なく大きな声を出して逃げ出していただろう。しかし、ただ身を縮め震えるている彼女、もとい彼を見ていたら、なんとも言えない気持ちになった。

 きっと、この人が一番混乱している。護衛騎士に連行され、投獄されてしまうかもしれない恐怖と戦っている。ここで大声を出して追及するのは、得策ではないように思う。

「あなたは……一体どなたなのですか?」

 エルシーは静かに尋ねた。ティアナが少しだけ顔を上げる。

「……今はお答えできません……お許しください。でもっ、このまま騙し通す気はなかったんです。本物の王女様と入れ替わるつもりでいたんです。それまではどうか……どうか……っ」

 美しい銀髪が床につくことも厭わず、再び頭を低くして懇願するティアナを見て、エルシーは返す言葉を無くしてしまった。

 身を偽っていたことが露呈すれば極刑は免れないと、本人も重々承知しているはず。その上で王女として国境を越えてきたのだから、なにかやむを得ない理由があるはずだ。

「このことを知っているのは……?」

「……パメラだけです」

 エルシーはようやく合点した。ティアナが国王を避け、侍医の往診を断り続け、他の侍女の世話を許さなかったのは、性別が判明するのを恐れていたからだ。さらに、幼少期ならまだしも、この年齢になると明らかに男女の体つきには違いが生じるので、外見をごまかすためにわざとゆったりとしたドレスを着ていた。王女は道中や王宮到着時にはヴェールで顔を覆っていたというアーネストの情報から考えるに、偽物である自分の顔を誰かにしっかりと覚えられるのを回避する目的があったのだろう。

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