【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「どうぞ顔を上げてください。……王女殿下」

 エルシーも目の前の人物が、もはやティアナ王女ではないことはわかっている。しかし、他に呼びようがないので、これまで通りの言い方をするしかなかった。

「私などには想像もつかない何か……深いご事情がおありなのだと、お察しいたします。あなた様も死を覚悟で……ここまで来られたのではありませんか?」

 ティアナがハッと顔を上げる。その表情は悲痛の色に染まっている。

「私も侍女のはしくれです。一度お仕えすると決めたからには、口外するつもりはありません」

「本当ですか……?」

「ええ。でも、あまり時間はありません。それまでに何とかお考えにならないと。パメラさんにも、私が知ってしまった事実をお伝えしないといけません」

「はい……。それと……ありがとうございます」

 エルシーが相手の心を落ち着かせるように穏やかに言うと、ティアナはうっすらと涙を浮かべて呟いた。




 しかし、そうは言ったものの。エルシーにできることは何もない。本物と入れ替わるつもりだというが、いつ、どこで。さらには、意図せずして知ってしまったこの事実が、エルシーをさらに苦しめることになった。

「体調でも悪いのか? あまり食が進んでいないようだが」

 その日の夕食時。セルウィン邸の食堂で席を共にしたアーネストが、気遣わし気に声をかけた。エルシーも今気づいて視線を下ろすと、食事にほとんど手がつけられていない。

「い、いえ……大丈夫です」

 慌てて笑顔で取り繕い、フォークを口へ運んだが、味がしない。
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