【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「お待たせいたしました。エルシー・ウェントワースと申します。母は体調が優れず、臥せております。お会いできない無礼をどうぞご容赦ください」

「いや、こちらこそ急に訪ねて申し訳ない。アーネスト・セルウィンだ。王宮に出仕する前なので、この出で立ちなのを許してほしい」

 エルシーはその名に聞き覚えがあった。

 このアシュクライン王国の王立騎士団は、任務内容によっていくつかに分けられている。王族の護衛に当たる近衛隊である第一騎士団、王都の警備と治安維持を担う第二騎士団、東西南北に配置されている国境騎士団がある。

 アーネストは副団長の任を経て、一年前に第一騎士団の団長に抜擢されたほどの実力の持ち主で、遡れば祖先は王族に繋がる由緒正しきセルウィン公爵家の現当主でもある。

 エルシーは改めて目の前の人物に注目した。

 癖のない漆黒の髪に、切れ長の黒い瞳。遠った鼻筋と薄い唇、と顔のパーツは完璧に整っていて、一見冷たそうな印象を受けるが、どことなく漂う気品も感じる。エルシーより優に頭ひとつ半ほど高い背に、衣服の上からでもわかる精悍な体躯、長い手足。

(そういえば、騎士団長がものすごく素敵、と侍女たちが話していたわね。確かお歳は二十八だったかしら)

 と、エルシーは宮中の噂を漠然と思い出した。しかしすぐに不躾にも無言で男性を凝視していた自分を内心で恥じて、アーネストに着席を勧めた。

 すると、テーブルを挟んで腰掛けたエルシーを、今度はアーネストがじっと見つめている。

 地味で質素なドレスが、落ちぶれた我が家の内情を物語っているのかしら、とエルシーが心配になっていると、アーネストがおもむろに口を開いた。
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