【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 聞き返そうとしたがエルシーの暗い顔を見て、アーネストは何も言えなくなってしまった。

 妊娠に至らなかったことで、落ち込んでいるのだろうか。もしかしたら、体調が悪いのを感じたエルシーは、ひそかにその可能性を期待していたのかもしれない。しかし残念な結果に終わり、耐えられなくなって、夫である自分に会いにきたのではないか。

「……そうか。だが、こればっかりは授かりものだから、君が気に病む必要はない」

 アーネストは妻を労わろうと、立ち上がって彼女の肩に手を置きかけた。しかし、その瞬間、エルシーがすくっと席を立つ。

「もし、妊娠していたら……アーネスト様はお優しい方なので、責任感から私と子の面倒を最後まで見ると、おっしゃっていたと思います」

「え?」

「ですが……これで、思い残すことはございません」

「エルシー、一体何を」

 アーネストは困惑の渦の中に放り込まれていた。妻の話の内容が見えない。


「私を……どうか、お捨てになってください……!」

 俯いたまま悲痛な声で小さく訴えると、エルシーはアーネストの顔を見ずに部屋を出て行った。

 ドアの向こうで駆けていく音が遠ざかる。

ひとり残されたアーネストは何を言われたのか、瞬時に理解できずにいた。頭が受け入れを拒否したと言っても過言ではない。それほどに、エルシーの発言はアーネストに衝撃を与えた。


(俺がエルシーを……捨てるだと……?)

 
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