【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
アーネストがその場に立ち尽くしていると、副団長のグレッグが入室してきた。
「さっきそこで、お前の奥方とすれ違ったけど、思いつめた顔してたぞ。何かあったか?」
「……エルシーに、私を捨ててください、と言われた」
アーネストは抑揚のない声で答えた。
普段の彼なら、他人に恥を晒すような発言は絶対に控えていたはずだ。これまでさまざまな局面においても、冷静さは常に彼の所有物であり、それが揺らぐことはなかった。しかし今回、受けた衝撃があまりにも強かったため、正常な判断力が働いていない状態にあった。
てっきり「別に」という素っ気ない回答が返ってくると思っていたグレッグは、唐突に新婚夫婦の危機を知るところとなり、うっかり質問してしまった自分を猛烈に後悔した。
しばし重い沈黙が部屋中を漂う。
「まさか、何かの間違いだろ」
「エルシーは冗談でそんなことを言う性格じゃない」
「だったら本気でお前との別れを望んで……?」
わからない、という風に首を左右に振ると、アーネストは少し落ち着きを取り戻し、椅子に座った。
「追いかけなくていいのか?」
「俺も彼女も今は職務中だ」
普段と変わらない様子に戻ったアーネストを見て、グレッグは少し心配になった。
「とにかく今日は早めに帰って、ちゃんと話をしろよ。仕事の後処理は俺がやってやるから。……それから、奥方にちゃんと言葉に出して愛情表現しないと、いつか愛想を尽かされて別の男のところに走られるぞ」
「……別の男? それは本当か?」
アーネストの鋭い視線を受けたグレッグは、余計なことを言ってしまった、と再び後悔したが、もう遅い。
「し、知るか。姉の受け売りだ。伝わってるだろう、ってのは男の一方的な都合のいい願望なんだとよ。とにかく早めに修復しろよっ」
グレックはそう言い残すと、足早に部屋を出ていった。