【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 夕刻、いつもの時間にアーネストは王宮を出て、帰路についていた。

 馬車の中で思い浮かべるのは、昼間に見たエルシーの沈鬱な表情。彼女の放った言葉は、一時の気の迷いだと信じたい。何がそうさせてしまったのか。グレッグの指摘通りなのか。

 言葉に出して愛情を表現するのは苦手だと自覚している。これまで何度口に出そうとしても、なかなか実行できなかった。そのぶん、態度で表してきたつもりだった。



 初めてエルシーに会ったのは、騎士学校に上がる前の十三歳の時。祖父に連れられて、当時まだ裕福だったウェントワース家を訪れた。小さな茶会だったように記憶しているが、周りは大人ばかりで正直つまらなく、会場を抜け出して気づけば小さな中庭に出ていた。そこで、向こうから誰かがやってくる気配がして、無意識のうちに柱の陰に隠れた。現れたのは、金髪の五歳ほどの少女。確かこの家の長女で名はエルシーだったな、と先ほどの自己紹介の場面を思い出す。だが、何げなく眺めているうちに、奇妙なことに気づいた。

 エルシーは、ひとりなのにまるで誰かと話しているようだった。無邪気に笑いながら、庭を横切って進んでいく。おそらく両親は来客の対応で忙しく、娘に充分構ってやれないのだろう。アーネストも暇だったので、エルシーの動きを目で追っていると、彼女が小さな悲鳴を上げた。
小さな花壇の前で、散ってしまった無数の花びらを見て落胆しているようだ。

 普段のアーネストなら、散ってしまったものは仕方がない、とこの場をあとにしただろう。しかし、その時はほんの気まぐれからか、久々に〝力〟を使ってみることにした。

 周囲に誰もいないことを確認してから、意識を花びらへと集中させる。すると、花びらはくるくると円を描いて風に舞い、空高く飛んで行った。

 上手くいった。この時のアーネストは、風の魔力がまだ使えたことに自己満足した。決して誰かを驚かせたり喜ばせようとしたわけではなかった。だが、楽しそうな笑い声がしてふと視線を戻すと、目を輝かせたエルシーが花びらの消えた青空をじっと見上げている。
< 132 / 169 >

この作品をシェア

pagetop