【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
しかし、怒らせてしまった以上、結婚は断られるだろう。そうなっても、エルシーの弟ルークの勉学については最後まで責任を持とうと決めていたし、もし困っていることがあれば彼女が許すかぎりの援助も惜しまないつもりでいた。
なので、翌日エルシーが謝罪と礼のために騎士団長室を訪れた際は、アーネストも驚きを隠せなかった。それどころか、結婚の申し出を受けたいと言われた。彼女が家族のために決めた覚悟だとはわかっていたが、歩み寄ってくれたことにアーネストは内心感謝していた。絶対に後悔はさせない。そう誓って、彼女の手を取った。
エルシーもアーネストに徐々に心を開き始め、素直で可愛らしい一面を見せることも多くなった。彼もそんな彼女をより一層大事にしようという気持ちが強くなっていき、ふたりは特に問題もなく夫婦生活を送ってきた。
それなのに。
『私を……お捨てになってください!』とは、どういうわけか。
(何が悪かったんだ……。グレッグの言う通り、愛を言葉にしてこなかったせいなのか。……まさか、他に男が……いや、それはない)
ちょうど、馬車が屋敷に到着した。アーネストは深く息を吐き出す。
とにかく、一度落ち着いてから話し合いが必要だ。この時間なら、エルシーはすでに帰宅しているはず。
屋敷に入るなり、アーネストは足早にエルシーの部屋へと向かった。そのあとを家令が慌てた様子で追いかける。
「あの、旦那様、奥様は王宮にいらっしゃいますが……」
「まだ帰っていないのか?」
「えっ……は、はい。しばらく王宮に泊まり込むと仰せられて、身の周りのものを持たれて出て行かれたきりです。旦那様には王宮でご自身でお伝えするから、と……」
「なんだと⁉」
家令の言葉を最後まで聞くことなく、アーネストはエルシーの部屋へ駆け込んだ。当然、エルシーの姿はなく、クローゼットの中を見ると、手持ちのドレスが数着なくなっている。
アーネストは踵を返すと、大急ぎで玄関へと戻った。
「旦那様、どちらへ?」
「王宮だ。エルシーを連れ戻す」
「でしたら、すぐに馬車を回し……」
「それでは遅い!」
珍しく声を荒らげる主人に驚く家令を横目に、アーネストは厩へと走った。まだ手綱がついたままの馬をみつけると、鞍もついていない状態で跨り、その腹部を蹴った。