【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「……はい?」

 暫しの沈黙のあと、エルシーの口から間の抜けた声が漏れ出た。王族つきの侍女として長年仕え、完璧な礼儀作法を身に着けた者として、それがいかに雑な返答であったか、驚愕で固まってしまった彼女は全く気づけないでいた。

 しかし、すぐに聞き間違いだと思い、エルシーは自分を取り戻す。

「申し訳ありません、よく聞き取れなかったのですが」

「君に、結婚を、申し込みに来た」

 彼女の言葉を真に受けたアーネストがやや身を乗り出し、幼子に教えるかのような口調で、はっきりと言い放った。

 聞き間違いではなかったのか。彼の真意がわからず、エルシーは小首を傾げる。

「あの、セルウィン公爵様」

「アーネストと呼んでくれ」

「では、アーネスト様。それで、結婚とは……?」

「君は俺の妻となる。一緒に暮らし、寝室を共にし、そうなれば、いずれは俺の子を産み––」

「そういうことをお聞きしているのではありませんわ!」

 エルシーは顔を真っ赤にして、思わず立ち上がった。何が、そうなれば、だ。いちいち説明されるほうの身にもなってほしい。それとも彼の中で自分は、結婚の意味をいまいち理解しきれていない昔の小さな女の子のままなのか。この歳で恋愛もろくにしてこなかったせいで、実年齢より幼い雰囲気が醸し出ているのだろうか……と、エルシーは情けなさで肩を落としながら、ストンと着席した。

 だが、気落ちも一瞬のことで、すぐに背筋を伸ばし、毅然とした面持ちでアーネストに向き直る。

「さすがに意味はわかります。私がお聞きしたいのは、なぜ私なのか、ということです」
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