【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「君が適任だからだ」

 まるで上官が部下に新しい任務を言い渡すような物言いに、エルシーはいよいよ、ついていけない。

「第一騎士団の団長の任についてまだ一年で、正直、忙しい。だが、公爵家の当主がいつまでも独り身でいるのは世間体が悪い、と周囲がやたら見合いを勧めてくることにうんざりしている。そんな時、王宮でたまたま君を見かけた。どこかで見たことがあるような気がして、人に尋ねたら、ウェントワース家の令嬢だと聞いた。王女殿下の侍女で身元もはっきりしているなら、周囲も反対しない。……君が俺を覚えていないのは、やや誤算だったが」

「身元がはっきりしているご令嬢なら、他にもいらっしゃいますわ。何もこんな寂れた家から妻を迎えなくても、輝かしい家柄のお嬢様はたくさんいらっしゃいますでしょう? アーネスト様に相応しい方が見つかるかと」

「ああ。だが、甘やかされて育ち、親の権限で贅沢が当たり前だと思っている世間知らずな女性を妻にしたくはない。婚約中は上手く隠し通していたとしても結婚後に本性が現れるかもしれない。それに対し、君は真面目で、王太后様の勧めで王女殿下の侍女に抜擢されたくらいだ。王太后様に信頼されている点は大きな決め手だ」

 エルシーは咄嗟に言葉が出なかった。短絡的なのか、慎重なのか、よくわからない。人物像を評価されたのは嬉しいが、たまたま顔見知りの自分が彼の条件に合っていて手っ取り早かっただけだ、と思うと少し複雑な気分になった。だが、貴族間の婚約の取り決めは、まず両家、または両者の条件で成立することがほとんどなので、これはこれでおかしくない話なのかもしれない。

「俺は君がいい」

 アーネストが黙り込むエルシーをじっと見つめてきた。

 エルシーの心臓が思わず跳ねる。

 彼にとって適任だという意味なのに、まるで心から自分が求められたような錯覚を起こし、不本意にも女心が揺さぶられた。

 しかし、そう感じてしまった浅はかな自分が嫌になったエルシーは、すぐに視線を逸らすと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


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