【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
昨夜、護衛の目をかいくぐって窓から侵入してきたその男は、ティアナと話をしたい、と言ってきた。ティアナはすぐに追い返そうとしたが、一緒に来なければこの砦の爆薬庫に火をつける、と迫ってきた。普段は穏やかだった彼がそんな過激なことを言うとは信じられなかったが、追い込んでしまったのは自分だと、ティアナは自責の念にかられた。
外にはちょうど掴まれる木があり、木登りが得意だった彼女は窓から抜け出したのだという。
「ティアナ様は、なぜ、ご自分を殺すよう、おっしゃったのですか?」
「私が彼の人生を狂わせてしまったからです。形はどうあれ、私は彼を裏切ってしまったのです。彼もここまで追いかけてくるということは、それほど私への憎しみが強かったということだったのでしょう。彼だけじゃない……ディアンも私のために本当の人生を歩めなかった。私の存在が、彼の人生を台無しにしてしまった」
ティアナは少し沈黙したあと、再び口を開く。
「陛下にはすべてお話しました。もちろん、こんな私は大国の妃に相応しくない、ということも。でも陛下がお心変わりする様子はありませんでした。もちろん、このことは口外するなとおっしゃいましたが、あの場に居合わせて私を庇ってくれたあなたにだけは、話さなければいけないと思ったのです」
「……ご安心ください。私ももちろん、誰にも言いません」
「ありがとうございます……」
エルシーの真っすぐな視線を受けて、ティアナの表情が少し和らいだ。しかし、その瞳はいまだ暗闇を彷徨っているように思える。
無理もない。ティアナは昨夜、兄のように慕っていた人物に殺されかけたのだ。その男が何を語ったのかはわからないが、自分を殺せ、とティアナに言わしめるほど、憎悪に満ちた言葉を浴びせたのかもしれない。ティアナも彼に対する負い目から、抵抗できなかったのだろう。