【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍


 王都に戻って一週間が過ぎた。エルシーの足の腫れも治まり、痛みもだいぶ引いてきている。まだ走れないが、歩行ならできるようになった。

 
 アーネストが帰宅したと聞き、エルシーが訓練がてらゆっくりと廊下を進んでいると、玄関の方向から駆けてくる人影があった。

「エルシー、無理をするな」

「お帰りなさいませ、アーネスト様。大丈夫です。それと、何度も申し上げていますが、こうして少しずつ動かしていかないと――」

 エルシーの言葉が途中で途切れる。アーネストに横抱きにされたのだ。そのまま部屋に運ばれいく様子を、使用人たちは温かく見守る。王都に帰ってきてから連日繰り返されるこのやりとりを、彼らはすっかり見慣れてしまっていた。

「ひとりで歩けます」

「家の中では俺に甘えればいい」

 ここのところ過保護な夫に変貌してしまったアーネストは、エルシーを部屋に戻すと、素早く着替えをすませ、再び妻のもとにやって来る。

「少しでも歩く練習をしておかないと、のちのち困りますから。陛下の婚礼まであと十日余りですし」

 アーネストに足の状態を確認してもらいながら、エルシーは答えた。

 ティアナも無事に王宮に入り、ジェラルドとも仲良くやっているようだ。アーネストからそう聞いたエルシーは、ホッと胸を撫で下ろした。帰ってからはティアナと会っていないので心配していたのだが、少しずつ気持ちも落ち着いてきたのだろう。

 王女のもとへと導いてくれた〝声なき者の声〟は、またエルシーの耳に届かなくなった。またいつか聞こえるようになったら、子供の頃のように彼らとゆっくり会話してみたいと思う。
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