【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「え、あの、アーネスト様……お帰りはどうなさるのですか?」

 エルシーが戸惑いがちに声をかけたのと同時に、アーネストが振り返る。

「あとで迎えを寄越すように言い渡した。それまで、ウェントワース家の長と話がしたいのだが」

「は、はい、構いませんが」

 咄嗟にエルシーは頷いた。――だが。

「君ではない」

 ため息混じりにアーネストは答えると、視線を彼女の横に立つルークに向けた。

「えっ、僕ですか!?」

「他に誰がいる。ふたりで話がしたい。歳はいくつだ」

「……十五歳です」

「だったら充分、話ができる」

 姉弟は思わず顔を見合わせた。不安げに眉を下げるルークを見て、エルシーはアーネストに何か言い返そうか一瞬迷ったが、彼には何か思うところがあるのだろう。

 エルシーは弟を見つめ、大丈夫、という意思を込めて力強く頷くと、ふたりを応接間へ案内した。

 入室の際、茶の用意は不要、とアーネストに言い渡された。つまり、邪魔をするなという意思表示だ。

 不安と緊張で強張る弟の背中がドアの向こうに消えていく。エルシーは彼らの話が終わるまで廊下で待つことも考えたが、いつ終わるとも知れないので、その間母の様子を見に行き、そのあとマティルダと夕食の準備に取り掛かった。

 やがて、厨房に鍋の湯気が立ち込めた頃、ルークが姿を現した。

「姉様、アーネスト様が呼んでるよ。今、図書室にいらっしゃるから」

 その声が心なしか弾んでいるように聞こえて、エルシーはハッと顔を向ける。ルークの瞳は輝き、口角は嬉しそうに弧を描いていた。

「ルーク、公爵様と何をお話したの?」
< 21 / 169 >

この作品をシェア

pagetop