【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「……私だって、ルークには不憫な思いをさせてしまっていることを、申し訳なく感じています。でも、もう売れる物は売ってしまいましたし、私の給金では、毎月の母の診療代と薬代、家族と使用人の生活費を賄うのがやっとなんです。お金の余裕なんてどこにも――」
「では、盗まれる前に、あの宝石を売ればよかったな。少しは足しになっただろう」
アーネストの心ない発言に、エルシーはとうとう凍りついた。すぐさま怒りに火がついたが、それを表面に出すことはウェントワース侯爵家の長子としての、また品性を叩き込まれた王宮侍女としてのプライドが許さなかった。
「……家のために、調度品も装飾品も絵画も、手放しました。母も、自分のドレスや宝石を売ることを快諾しました。盗まれたルビーも、当初、母は売りに出すつもりだったんです。でも、私が止めました。あれは、結婚前、父が母に贈った思い出の詰まった品なのです。それだけは、母に持っていてほしいと……父の形見として置いてほしいと私が望みました。他人からみれば、父は愚かで無計画な人間だったかもしれませんが、私たち家族にとっては優しい父であり大切な人でしたから」
エルシーは無理に微笑んでみせた。頬は引きつり、口元は歪み、今にも泣き出しそうで不格好な表情を晒していたことには違いないが、目の前のこの冷血漢に屈してしまうよりはマシだ。
「貴方は何もわかっていらっしゃいませんわ」
「いや、俺は」
「いろいろとお世話になり、感謝申し上げます。このご恩はいずれ必ず」
静かな佇まいを貫き、見えない壁を作り出すエルシーを見て、アーネストの黒い瞳がわずかに揺れた。そして、何か伝えようと口を開きかけた時。
図書室の扉がノックされ、マティルダが控えめに顔を覗かせた。
「……失礼したします。セルウィン公爵閣下、お迎えの馬車がお待ちでございます」
アーネストは表情を戻し、軽く頷いた。「見送りは結構。では」とだけ残し、エルシーの横を通り過ぎていく。
背後で閉まる扉の音を聞いたのち、彼女はやっと表情を崩すと唇を噛み締め、無言で俯いた。
あんな男に、一瞬でも頼もしさを感じ、見とれてしまった自分が情けなかった。やはり、彼との結婚は無理だ。早々に断らなければ。
「では、盗まれる前に、あの宝石を売ればよかったな。少しは足しになっただろう」
アーネストの心ない発言に、エルシーはとうとう凍りついた。すぐさま怒りに火がついたが、それを表面に出すことはウェントワース侯爵家の長子としての、また品性を叩き込まれた王宮侍女としてのプライドが許さなかった。
「……家のために、調度品も装飾品も絵画も、手放しました。母も、自分のドレスや宝石を売ることを快諾しました。盗まれたルビーも、当初、母は売りに出すつもりだったんです。でも、私が止めました。あれは、結婚前、父が母に贈った思い出の詰まった品なのです。それだけは、母に持っていてほしいと……父の形見として置いてほしいと私が望みました。他人からみれば、父は愚かで無計画な人間だったかもしれませんが、私たち家族にとっては優しい父であり大切な人でしたから」
エルシーは無理に微笑んでみせた。頬は引きつり、口元は歪み、今にも泣き出しそうで不格好な表情を晒していたことには違いないが、目の前のこの冷血漢に屈してしまうよりはマシだ。
「貴方は何もわかっていらっしゃいませんわ」
「いや、俺は」
「いろいろとお世話になり、感謝申し上げます。このご恩はいずれ必ず」
静かな佇まいを貫き、見えない壁を作り出すエルシーを見て、アーネストの黒い瞳がわずかに揺れた。そして、何か伝えようと口を開きかけた時。
図書室の扉がノックされ、マティルダが控えめに顔を覗かせた。
「……失礼したします。セルウィン公爵閣下、お迎えの馬車がお待ちでございます」
アーネストは表情を戻し、軽く頷いた。「見送りは結構。では」とだけ残し、エルシーの横を通り過ぎていく。
背後で閉まる扉の音を聞いたのち、彼女はやっと表情を崩すと唇を噛み締め、無言で俯いた。
あんな男に、一瞬でも頼もしさを感じ、見とれてしまった自分が情けなかった。やはり、彼との結婚は無理だ。早々に断らなければ。