【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 図書室を出たところで、エルシーは前方から足早に近づいてくる弟の姿を視界に捉えた。

「アーネスト様は、もう帰られたの?」

「……ええ。それより、ルークあなた、書記官になりたい、って本当なの?どうして、それを早く言ってくれなかったの?どうして、私よりあの人が先にそれを知っ――」

 なんとも言えない鬱積した焦りを感じ、責めるような口調になっていることに気づいて、エルシーは咄嗟に言葉を切った。

 それに、その話を先に聞いてどうするつもりだったのだろう。自分では弟の夢を叶えてやれないのに。それをわかっているからこそ、ルークもこれまで一度も口には出せなかったのに。

「……うん、僕も言うつもりはなかったんだけど、アーネスト様に、このまま何もしないつもりか、って諭されて。だから、本当は宮廷に出仕して身を立てて家族に楽をさせたい、安心させたい、って答えたんだ。そうしたら、家庭教師をこの家に遣わせるから、死に物狂いで勉強しろ、って」

「えっ!?」

「でもその前に、姉様の許可を取りたいから、図書室に呼んでほしい、って……もちろん、その話だったんでしょう?」

 エルシーは言葉に詰まった。アーネストがそこまで考えていたとは。しかも、勝手に事を進めたりせず、ちゃんと長姉であるエルシーの意見も聞くつもりだったのだ。

 いつも淑やかで穏やかな姉が、感情的になり、話を最後まで聞かずに相手を追い返したなど、ルークは露ほども想像していないに違いない。

「ええ、まあ……」

 屈託のない純粋な笑顔を前に、エルシーは本当のことを言えず、結局言葉を濁すしかなかった。

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