【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 その夜、食事をすませ、後片付けを終えたエルシーは、母の寝室を訪れた。薬が程よく効いているのだろう、穏やかな寝息にホッと胸を撫でおろし、掛け布団を整えてエルシーは静かに部屋をあとにした。

 静寂と暗闇に包まれた廊下、ほんのわずかにぼんやりとした薄い光が漏れている。それがルークの部屋からだとわかると、エルシーは少し開いたドアの隙間からそっと中を覗いてみた。

 蝋燭の光を頼りに、机に向かい熱心に本を読んでいるルークの横顔が視界に入る。いつになく嬉しそうに本に見入る弟の様子に、エルシーはなんとなく罪悪感を抱いたまま黙って自室に戻った。

 燭台を机に置くと、薄暗がりの中に部屋内部が浮かび上がる。もともとは女の子らしい白とピンクを基調とした部屋だったが、今は壁も色褪せてしまっている。

 エルシーはベッドに腰を落とすと、上体を前方に傾けて、組んだ両手に額を押しつけた。

 母の容態が落ち着いて、本当によかった。母が穏やかに眠れているのは、紛れもなくアーネストのお陰だ。もし彼がいなかったら、エルシーは途方に暮れたまま、未だに雨の街を彷徨っていたに違いない。

 それに、あんなに嬉しそうなルークの顔は、初めて見たような気がする。これまで帰宅するたびに目にしてきた笑顔とは明らかな違いをエルシーは感じ取っていた。あの瞳は、この先に希望を見出だし、自らの足で歩き出そうとする者の輝きに溢れている。
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