【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 翌日は朝から薄雲が広がっていた。朝食を済ませ、再びセルウィン公爵家の紋章が刻まれた立派な馬車に、ふたりで乗り込む。

 今日向かうオーモンド氏の邸宅は、ここから三時間ほど走ったところにある。こうして何の心配もなく出発できるのは、アーネストが事前に道を詳しく調べてくれていたおかげだ。

「君の父上とオーモンド氏はどんな関係だった?」

「仕事で知り合ったと聞きました。父は、信頼できるひとに会えてよかった、と言っていましたが、親しくしていたという話は聞いたことがありません。でも、こうして父とゆかりのある方にお会いできるのは嬉しく思います。我が家が傾きかけると、次第に離れていく人の方が多かったですから。それでもひとりではこうして行動に移せなかったと思います。アーネスト様が一緒に来てくださって、とても安心しています」

 エルシーは素直に感謝を述べると、微笑んだ。

「まさか、私のような娘がアーネスト様ほどの男性と婚約することになるなんて、父が一番驚いているんじゃないでしょうか」

「君は自分を過小評価しすぎだ。これまで頑張ってきた君を、さぞ父上も自慢に思っていると推測するが」

「……それはどうでしょうか……」

 アーネストの言葉に、エルシーの表情が少し曇る。

「……私は親不孝者だと、自分では思います。以前、グローリア様の馬車の件でお話ししましたよね、父の出発の日のことを。父はとても険しい顔をして、私を叱責しました。〝声〟を聞き入れてはならない、という父の教えを私は破ってしまったんです。父はとても失望したと思います。私も……まさかそれが最期の別れになるなんて……思っても……いませ……」

 あの日の父の顔を思い出すうちに、悲しみで胸がいっぱいになり、語尾が続かない。

「すみません……ついこんなことを話してしまって……お耳汚しでした」

「そんなことはない。君は昨日言ってくれただろう、俺のことはなんでも知りたいと。俺も同じだ」

 アーネストは穏やかに言うと、エルシーの手に自分のそれを重ねた。彼はそれ以上その話題には触れなかったが、変に慰めの言葉をかけられたところで余計に彼女の心は深く沈んでしまっていただろう。

 ただ静かに自分の気持ちに寄り添ってくれている。エルシーにはそれだけで充分だった。

 
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