【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「いきなりそんな、失礼ですよ」

「何が」

 エルシーの咎めるような眼差しにも、アーネストは平然と向き合う。

「オーモンド氏に会えなかったら、我々はここに来た目的を失う。それに、このまま帰ったところで、王都で待つ母上や弟に、君はなんと報告するつもりだ?」

「う……それは……」

 考えようによってはアーネストの言うことにも一理あるので、エルシーはすぐさま返す言葉が見つからない。

(……そういえばここ最近忘れていたけれど、アーネスト様は思ったことはまっすぐ口に出すタイプの人だったわ……。こんなことで、名門セルウィン公爵家の当主が務まるのかしら……。これまでそれを注意する人が近くにいなかったのなら、これからは私が教えて差し上げないといけないのかしら……)

 将来を見据えてつい黙り込んでしまったエルシーを見て、ヴィンスは彼女がアーネストに責められて言葉も出ないと勘違いしたようである。ふたりの間を取り持つように、明るい声を上げた。

「構いませんよ。どうぞ、父に会ってやってください。父が目覚めた時、なぜそのままお帰りいただいたのか、って僕の方こそ叱られてしまいますから」

 ヴィンスの好意によって、エルシーとアーネストは屋敷の二階へと案内されることとなった。オーモンド氏の寝室は南側の広い一室で、大きな窓に面して寝台が配置されている。そこに横たわるのは、長く白い髪と髭をたくわえた老人だった。実年齢は老人と呼ぶにはまだ早いのだろうが、長年の病床生活で頬は痩せこけ、精気が全く感じられない。エルシーは一瞬言い知れぬ不安に駆られたが、近づくと微かではあるが呼吸の存在を確認できて、胸をなでおろした。

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