【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「そろそろお暇しましょう、アーネスト様」

 アーネストはオーモンド氏の姿をじっと見つめていたが、エルシーに促され、一緒に部屋をあとにする。

「まもなく正午です。よろしければ、昼食をご一緒にいかがですか?」

 廊下の先から、ほのかに食材のいい匂いが漂ってくる。きっと遠路はるばるやって来たエルシーたちをもてなそうと、すでに準備が始まっているのだろう。その好意を断るのもためらわれて、エルシーは「ええ……」と控えめに誘いを受けた。アーネストは何も言わないので、そのつもりなのだろう。

 エルシーの問題はこの三人で食事をすることだ。会食の場に相応しい会話等は、花嫁修業のマナーのひとつとして目下受講中であるものの、何せ実戦経験がない。ヴィンスとは初対面なので何の情報もなく、彼がどのような会話を好むのか手探りするところから始めなくてはならない。アーネストにも、その場を盛り上げるような会話能力が備わっているとは考えられず、下手をすると空気を凍り付かせかねない。

(食べる前から胃が痛くなるってどういうこと……?)

 エルシーが顔をひきつらせていると、屋敷の使用人がヴィンスのもとへ駆け寄ってきた。小声で何か伝えると、「参ったな」とヴィンスが困惑気に眉を下げる。その様子が気になって、エルシーはつい声をかけた。

「あの、どうかなさいましたか?」

「ああ、いえ、急に来客があったようで……。大丈夫です、すぐにお帰りくださるよう伝えますので」

「それは申し訳ありませんわ。また日を改めるというのも、大変でしょう。私たちなら待っていますので」

 アーネストが何か言う前に、エルシーは『私たち』を強調して先手を打つ。そんなエルシーにアーネストは視線を向けたが、とりわけ異議は唱えなかった。
< 71 / 169 >

この作品をシェア

pagetop