【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
その後、ふたりは戻ってきたケレット夫妻に誘いを受ける旨を伝えて、行動を共にすることにした。
馬車でさらにニ十分ほど走らせた所でケレット家の屋敷に到着した。裕福な商家らしい立派な館に足を踏み入れた瞬間、エルシーは重い空気を感じて立ち眩みを起こしそうになった。
(何……今の感覚……)
とても切なくて胸が締め付けられる感覚。アーネストが支えてくれたお陰で倒れずに済んだが、周囲の人間は至って普通で、何も変わったところは見られない。
(私だけなの……?)
そんなエルシーに気づいたケレット夫人がそばにやって来た。
「エルシー様、やはりご気分が優れないご様子ですね。客間を用意させますから、ひとまずそちらでお休みになられてください」
「いえ、大丈夫です……」
自分から誘いを受けて、迷惑はかけられない。エルシーは慌てて辞退しようとしたが、客人に何かあってはいけないと思ったのか、ケレット夫人はそばにいたアンナを呼んだ。
「アンナ、ほら、エルシー様の手を支えて差し上げて」
「は、はいっ……」
アンナはためらいがちにエルシーの手を取る。その時。
《イッショ》
弱々しい響きではあったが、エルシーは確かに〝声〟を感じ取った。
(え……、一緒、って言ったの? 何が…?)
しかし、ケレット夫妻やアンナ、ヴィンスや迎えに出てきた使用人など、大勢のいる前で聞き返すことはできない。いくら心の中で念じても、当然声の反応はなかった。
そのままアンナに手を繋がれて客間へと案内されるエルシーだったが、その手がじんわりと熱を持っていることに気づいた。まるで心を覆われるような温かさが伝わってくる。
(一緒って……まさか……)
はっきりとした確信は持てないが、エルシーの中で、とある可能性が芽生えていた。