【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「では、私はこれで……」
「ちょっと待って」

 客間に案内し、早々に立ち去ろうとしていたアンナをエルシーは引き留めた。故意に視線を合わせまいとしていたアンナが、ようやく顔を上げてエルシーを見る。

「しばらくここにいてくれないかしら。あなたといると、何だか落ち着くみたい」

 エルシーがにっこり笑いかける。しかしアンナは戸惑ったように視線を宙に彷徨わせた。

「もしかしてだけれど、あなた……〝声〟が聞こえる体質なんじゃない?」

 アンナの身体がビクッと震え、驚いたように目が見開かれたが、やはり口は固く引き結ばれたまま。すぐに否定しないところを見ると、エルシーの考えはどうやら図星のようだ。

「ごめんなさい、突然こんなこと聞いて失礼だったわよね。実は私もそうなの。大丈夫よ、ここには私たち三人しかいないから誰も聞いてないわ。あ、アーネスト様はね、私のこの力のことはご存知で受け入れてくださってるの。何の偏見もお持ちじゃないから、安心して」

 それでもアンナは警戒しているのか、何も発せず俯いている。アプローチを間違えたかしら、とエルシーが次の手段を模索しにかかっていると、アーネストが急に言葉を放った。

「アンナだったな。俺たちがここに滞在するのは長くてもあと数時間だ。エルシーに何か伝えるチャンスは二度と来ないぞ」

「ちょっと、アーネスト様、またそんな言い方して……! 相手は子供なんですよ、怖がらせてしまうではありませんか」

「俺はただ訪れた機会は逃すな、と諭しているだけだ」

「諭すなら、もっと言い方というものが……」

 
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