【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「私、ここに皆がいない理由がわかった気がしたんです。皆も夫人から同じ要求をされていたんじゃないかって……でも、夫人の思うような〝働き〟をしなかったから、期待外れとみなされて、どこかにやられてしまったんじゃないかって……」

 アンナの目からはらはらと涙が流れだす。

「……私、いい服も贅沢な料理もいらない。ただ、いなくなった皆や養護院の友達と仲良く過ごしたい」

 エルシーはアンナの肩を抱き寄せた。

「そうだったの……。誰にも言えずに我慢してたのね。アンナ、あなたは偉いわ。自分の保身のために、嘘の演技で夫人を喜ばせるなんてことはしなかった。とても強い意思がないとできないことよ。よく頑張ったわね」

 よほど追い詰められていたのだろう、アンナはその言葉を聞くや否や、エルシーに抱き着き、わっと泣いた。

 その小さく震える背中をエルシーが優しくあやしていると、それまで成り行きを見守っていたアーネストが静かに近づいてきて、アンナのそばでしゃがんだ。そして、大きな手で少女の頭をクシャクシャと撫でる。

「ちゃんと言えたじゃないか」

 アーネストの唇が優美に弧を描く。エルシーがつい見惚れていると、それに気づいたアーネストが少し顔を上に向けた。視線が合った瞬間、気恥ずかしくなったエルシーは顔を逸らす。

「どうした?」

「……いえ。たまに見せるそのお顔、破壊力抜群だと思いまして」

「なんの話だ」

「ご自覚がないのでしたら結構です」

「よくわかならないが、それより、アンナ、ここに連れて来られたのは何人だ? いつから?」

 アーネストの声に反応して、アンナは辛うじて涙を引っ込めると、そろりと顔を上げた。

「半年ほど前からだったと思います。私を除くと三人です」

「そんな短期間に三人か……。早く探し出さなくては。夫妻がずっとはぐらかしているのも気になる」

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