【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 “声を聞ける子供たち”を、言葉は悪いが、ケレット夫妻に『斡旋』していたのはヴィンスだ。養護施設の運営者なのだから能力を持つ子供たちの存在を知っていてるのは当然と解釈できるが、なぜ関係のないエルシーが声を聞ける者だと彼が知っていたのか。疑問は残っている。


 ふたりがオーモンド邸にすると、ヴィンスは突然の来訪者に驚いた。

「セルウィン公爵様、エルシー様……どうなさったのですか?」

「こんな時間に突然申し訳ありません。少しお話を伺いたいのですが」 

「はい、ですが今ちょうど、仕事中でして、手が離せないので……」

 明らかに動揺し口ごもるヴィンスに、アーネストが畳みかける。

「ケレット夫妻にかつて引き取られた三人の子供たちについてお伺いしたい」

 するとヴィンスは、一瞬視線を宙に泳がせたが、「どうぞ」と言葉少なげにふたりを招き入れた。

「では、応接室でお待ちください」

「いえ、時間も遅いので、要件が終わりましたらすぐに帰りますわ」

 エルシーの意志の固さを感じたのか、ヴィンスは小さくため息をつく。

「わかりました。ではすぐに書斎の書類を片づけますので、申し訳ませんが二階までご足労お長いします」

 エルシーとアーネストは、ヴィンスのあとに続いて階段を上がり、書斎へと通された。ブラウンの家具で統一されたその部屋は王都屋敷のアーネストの書斎の広さに比べると半分もないが、すっきりと整頓されていて、机の後ろにはバルコニーへと通じる大きなガラス扉がある。

 ヴィンスは机の上の書類の束をサッとまとめて端に寄せると、振り返った。

「狭いところで申し訳ありません。その子供三人なら、もう次の引き取り先にいますよ」

「その場所をお聞きしても?」

「なぜ、そんなことを聞くんです? まさか私が嘘をついているとでもおっしゃりたいのですか?」

 
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