【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
(そんな……お父様が……私を疎んで……?)



『それを口に出してはならないと、その歳になってもわからないのか』

 エルシーの頭に甦る、父との最後の会話。厳しい声と険しい表情、そして、振り払われた手。

 その手をつなぐことは、永遠にできない。

(お父様にとって、私はいらない子だったの……?)

 本当は、薄々自分でも気づいていたのかもしれない。それを認めたくなくて、目を逸らし続けていたのかもしれない。父亡きあと、懸命に働いてきたのは家族のためではあるが、本当は、こんな自分でも少しは父に褒められるはず、と心のどこかで自分自身を慰めていたからなのかもしれないーー。

 エルシーの心の糸がプツンと切れて、全身から力が抜けたその時。

「エルシー、しっかしろ」

 アーネストがエルシーの腰を抱き寄せ、かろうじて身体を支えた。

「ヤツの戯言には耳を貸すなと言っただろう」

「で、でも……お父様が……」

「エルシー、俺を見ろ。今、君の瞳には何が映っている? あいつに作り出されたまがい物の父親の姿か、それとも実在する俺か」

 エルシーは顔を上げてアーネストを見つめた。彼の黒い瞳はいつも通り凪いでいて、そのままでいると、自分の中で渦巻く暗い感情ごと何もかも、吸い込まれてしまいそうだ。しかし、その瞳の奥には、エルシーを信じる芯の強さと全てを包み込む温かな灯が見える。

(……そうだったわ……。アーネスト様がいてくださるだけで安心できるのは、ありのままの私を受け入れて認めてくださっているからだわ……!)

 エルシーの瞳に再び光が宿るのを感じたのか、アーネストがゆっくりと口角を上げる。それを見て、エルシーも微笑むとしっかり頷いた。そして、ヴィンスに視線を戻す。

「あなたがなんと言おうと、私は私よ。何も恥ずべきことはないわ。過去に後悔はあるけど、これは私の問題。あなたなんかに踏み入らせないわ」
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