【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「くっ……なんだ、いきなり」

 エルシーの意志のこもった強い眼差しに気圧されるように、ヴィンスが低く呻く。

「と、とにかく、あなた方のせいで、これからのケレット夫妻からの援助金は期待できない。余計なことをしてくれた」

 ヴィンスは机の引き出しを開けると大きな呼び鈴を取りだし、力任せに振った。するとそれが合図だったかのように、書斎の扉が開き、数人の男たちが雪崩れ込んできた。皆、剣や太い棒、斧などを手にしており、屈強な体格をしている。

「我が家の護衛も兼ねた使用人たちですよ。おとなしく捕まってください」

「私たちをどうするつもりなの?」

「公爵様には消えていただいて、エルシー様はその力でどなたかの役に立ってもらいましょうか。実はね、その力を神聖視している辺境の国もあるんですよ」

 もうヴィンスの世迷言などに翻弄されるエルシーではなかった。むしろ、彼を不憫に思い始めていた。自分たちが忽然と姿を消せば、王立騎士団が総出で捜索を始めるだろう。ヴィンスが捜査線上に上がり、捕らえられるのは時間の問題。そういう発想には至らないのだろうか。

「我を失った人間は突拍子もないことを思いつく天才になれるらしい」
「同感です」

 アーネストの呟きにエルシーが頷く。こんな状況でも落ち着いているふたりが癪にさわったのか、ヴィンスが苛立ち気味に「やれ」と男たちに指示を出した。

 アーネストはエルシーの腕を引いて、バルコニー側へと移動した。部屋の入口はふさがれているので、逃げ道はここしかない。しかも、本日アーネストは騎士団長ではなく一貴族として出発したため、佩剣していない。状況的には明らかに不利だ。
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