【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 相手が国内でも名高い凄腕の騎士団長だと知っているのか、男たちはじりじりと間を詰めてはくるものの、いきなり斬りかかったりしてこない。

「アーネスト様……どうすれば」

「少しの間、辛抱してくれ」

 アーネストは後ろ手にガラス扉を開くと、エルシーをバルコニーへと連れ出した。夕刻の風がエルシーの長い髪にまとわりつく。

 すると、アーネストは突然エルシーの身体を抱きかかえ、バルコニーの手すりに向かって助走し始めた。

「えっ、な、まさか飛び降りるつもりーー」

 心の準備など与えられなかった。エルシーの言葉が切れたと同時に、彼女を抱きかかえたアーネストの身体が手すりを飛び越える。

「きゃあああ!」

 エルシーは悲鳴を上げながら、アーネストの首にしがみついた。

 ここは二階だ。飛び降りれば確実にふたりとも無事ではすまされない。

(ここで人生終わり……? でもアーネスト様と一緒なら)

 そう思ったところで、エルシーは違和感に気づく。とっくに地面に叩きつけられてもいいはずなのに、その衝撃が襲ってこない。

 不思議に思い、恐る恐る目を開けて――エルシーは息を呑んだ。

 自分たちの身体全体を包み込むように、風がぐるぐると渦巻いている。まるで小さな竜巻の中にいる感覚だ。その風に守られてゆっくりとふたりの身体が下りていく。そして、地面に足がついた瞬間風は消え、視界が開けた。

 鬱蒼とした木が立ち並ぶ向こうに、オーモンド邸を取り囲む塀が見える。
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