【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「……あの風は、アーネスト様が……? まさか、風の……魔力……?」

アーネストが息を整えながら、わずかに頷く。

「そう、だ……。他に手段がなかった。……悪い」

「いいんです、それより初耳です……!」

「……ああ、長く使っていなかったら、自分の中で上手くコントロールできるか、俺自身にもわからなかった。その程度で、風の魔力の保持者だと、名乗るわけにはいかない」

 きちんと会話が成り立っているので、意識ははっきりしていそうだ。しかし久しぶりに力を放出しすぎたせいか、立ち上がるのは困難なようだ。

 その間にも、「こっちだ」という男たちの声が近づいてくる。

「エルシー、君だけでも逃げろ」

「そんな、嫌です! アーネスト様を置いていくなんて」

「俺なら大丈夫だ。必ず抜け出してみせる。惚れた女を最後まで守り切れないなんて、騎士としても男としても情けない話だが」

「嫌です! ここであなたを置いて行ったら、女がすたります!」

「そんなこと言っている場合か。とにかく早くーー」

「私の気持ちもわかってください!」

 突如、エルシーはアーネストの襟をつかむと、ぐっと引き寄せた。そして彼の唇に自分のそれをぎゅっと押し付ける。


 あまりの出来事に、アーネストは何が起こったのかすぐには理解できず、思考も身体も固まってしまった。

 
< 94 / 169 >

この作品をシェア

pagetop