【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 しかし、草を踏み分けて近づいてくる足音が耳に届き、どちらともなく身体を離した。途端に、エルシーの頬が熱を帯びる。

「ア、アーネスト様、こっちに……!」

 ごまかすように呟くと、アーネストの腕を支えて立ち、太い木の幹の陰に身を潜めた。姿勢を低くし、辺りの様子を窺う。

(ああ、私にもっと力があれば、何か切り抜けられる方法を見つけられるかもしれないのに……!)

 エルシーはアーネストの頭を包むようにして胸に抱きしめた。アーネストひとりだったなら、正面から男たちの包囲網を突破するのは容易だっただろう。しかし、そんな乱闘に自分を巻き込むまいとして他の手段に出た結果、彼にとんでもない負荷を与えることになってしまった。なんとか助けたいが、エルシーにはその力がない。あるのは、声なき者の声を聞く能力だけ。その声たちも、今のエルシーに対して何も伝えてこない。

(……当然よね。これまで散々遠ざけておいて、都合のいい時だけ手助けしてほしい、なんて願ってはいけないわ)

 エルシーは自分の非力さに唇を噛み締め、さらに腕に力を込めた。




「もう大丈夫だ」

 どれくらいそうしていたかわからないが、アーネストがエルシーの背中をトントンと軽く叩き、合図を送ってきた。

「そろそろ離してくれないと、俺も限界が近い」

 エルシーはパッと離れる。

「あ、ごめんなさいっ、苦しかったですよね」

「そうじゃないが……」

 アーネストは顔を逸らし、邸の方へ視線を向けると「やっぱりな」と呟いた。

「人が近づいてくる気配が消えた」

「え……?」

「その代わり、屋敷の方が少し騒がしくなっているようだ」

 
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