【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 エルシーも彼同様、そちらへと意識を集中させる。確かに、少しだが人の声と邸内を走る音が混ざって聞こえてくる。

 何かあったようだ。

「今なら抜け出せるかもしれない。行こう」

「でも、アーネスト様のお身体が」

「もう回復した。さっきの口づけと、君が胸に抱いてくれたおかげで」

 さらりと言ってのけて、アーネストが口元を少し緩めた。それを見て、エルシーは無我夢中だったとはいえ、先ほどの自分がいかに大胆な行動を取っていたか、改めて認識した。

 羞恥で全身が固まっているエルシーを立たせると、アーネストは塀伝いに進む。そして壊れかかった鉄柵を見つけると思いきり蹴飛ばして、敷地内からの脱出に成功した。

 アーネストの発言通り、少し離れた雑木林の近くにセルウィン公爵家の騎士団員が二十名ほど、待機していた。ふたりが姿を現した瞬間、軽装的な革の胸当て身につけた彼らが一斉に、恭しく一礼する。

「エルシー、君はここで彼らと待っていろ」

「え、アーネスト様はどちらに?」

「まだヴィンスに聞きたいことが残っている。問いたださなければ」

 アーネストはそう言う間にも、数人の騎士を選んでいる。向こうには護衛役も務める屈強な使用人たいがいる。こちらも万が一のため、態勢を整えて、再度屋敷に乗り込むつもりなのだろう。

「でしたら、私も行きます。取り返しのつかないうちに、三人の子供を救出しなくては。それに、ヴィンスさんが言っていた言葉も気になります。あの養護施設は一体何なのか、私には知る権利があります」

「だが、再び危険な目に遭うかもしれない」

「たとえそうだとしても、真実を知らなければ、私は前に進めないんです」

 エルシーはアーネストの袖を強く握りしめた。しばらくふたりは無言で見つめ合っていたが、強い決意のこもった瞳を見たアーネストが、しっかりと頷く。

「わかった。俺のそばを離れるなよ」

「はい……!」

 こうして再びふたりはヴィンスのもとへ向かった。



 三人の子供たちの行方ははっきりとわかっていない。


 
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