My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

「んー?」

 空を見上げながら彼は楽しげに続ける。

「ふっふぅー。それはね、ホントならボクがラグ・エヴァンスになるはずだったから、だよ」
「?」

 意味が解らなくて、もう一度口を開きかけたその時。

「――あ。来た」

 にぃっと笑ったルルデュールの視線を追って私も空を見上げる。
 こちらに近づいてくる人影。

「ラグ・エヴァンス」

 その声ははっきりと興奮していた。
 スタっと私たちの前に降り立つラグ。
 彼のその睨むような目つきを見上げ、あれと思う。

(なんで大きなまま?)

 風の術で飛んできたはずなのに、彼の姿は変わらない。
 いつもなら術の効力が切れた瞬間に少年の姿になってしまうのに。

「……人質のつもりか?」

 不機嫌極まりない、ラグの低音。

「え?」

 私とルルデュールの声がハモる。
 瞬間こちらを見下ろしたルルデュールと目が合って、しかしすぐにそれはラグの方へ戻った。

「違う違う、ボクそんな卑怯者じゃないよ~。心外だなぁ。おねえさんはただの観客」
「ならそいつから離れろ」
「はいは~い」

 溜息交じりに返事をし、ルルデュールは私から離れていく。
 代わりにラグがこちらに歩いてくるのを見て、咄嗟にまた怒鳴られると思った。
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