My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

「このアホが」

 案の定いつもの罵倒に、こちらも「だって」 と返そうとして、驚く。

(なんで)

 彼は、酷く傷ついたような顔をしていた。こちらの胸まで痛むような、そんな辛い表情。

 ――あのときと同じだ。
 私を道具と思ったことなんて一度もないと言った、あのときの表情と。

 私が何も言えないでいると、彼はその表情を隠すように顔を俯かせ私の前に膝を着いた。

「ラグ?」
「……なんでお前はそこまでするんだ」
「え?」

 彼が顔を上げ、その青い瞳が私を見る。

「なんでこんなオレにまで……」

 その時ラグの大きな手が伸びてきて私の頬に触れそうになった。

「ねぇ~早くしてくれる~?」

 ルルデュールの声に、その手がぴたりと止まり落ちていく。

「ラ、」

 また表情が見えなくなってしまい声を掛けようとしたそのとき、彼の腕が私の両脇に回りびっくりする。

「ぅわっ」

 そのまま私はラグに抱き上げられ、そこから少し離れた木の根元で降ろされた。
 すぐに立ち上がりルルデュールの方を見据えたラグに、私は何か言わなければともう一度その名を呼ぶ。

「ラグ!」

 すると彼は一度だけこちらを振り返り、いつものように、でもいつもよりも優しい声音で言った。

「ここで大人しく待ってろ。何もするなよ」

 そして彼は、私の返事も聞かずに行ってしまった。

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